清水マチ子さんのいつも暮らし
上ることは世話ないけれど、下ることは難しい。
夏は畑仕事、冬は寒干し大根とわら細工… 空に近い山之村でいつもの暮らしを楽しんでいる清水マチ子さん。 近頃は畑の準備に忙しい。 桔梗がきれいに育つよう底のないバケツに植えかえたり、 山芋が育ちやすいようにむしろを編んで囲ったり… 夫の實さんと一緒に畑仕事に精を出す。 子供のころに厳しかったお父さんの 「上ることは世話ないけれど下ることは難しい。」 という言葉が今も胸にあるマチ子さんは、 余分なものを持たないシンプルな暮らしを実践している。 電子レンジはないし、 お風呂は40年物の地獄風呂(五右衛門風呂)だ。 雪深い地域では定番の大きなフリーザーも持っていない。 今そのときあるものを工夫して使うことに楽しさを感じている。 「これが年寄りや。」と笑って言うマチ子さんに話を聞いてきた。 |
道理が分かってからが勉強や。
草履、花かご、ずんべん(雪靴)…小さな作品が並ぶ玄関。 マチ子さんは山之村きってのわら細工職人だ。 原点は、おかあさんが家族のために作っていた草履。 そばで見ていると気になって遊びながら覚えたという。 時代の流れとともに消えつつあったわら細工に 再び取り組むことになったのは結婚してから。 冬仕事に集落の女性たちで おみやげ用の小さなつぶらやずんべんを作ることになった。 分からないことがあるとすぐに近所に住むお年寄りに聞きにいき、 ずんべんは何十足も作って練習した。 その後、本格的に始めてから研究するのが楽しくなり、 お金が少しずつ入るようになった。 これまでたくさんの草履やずんべんを作ってきたが、 満足いくものができたことは一度もないと言う。 「道理がわかってからが勉強や。」 わら細工への探求心は尽きることがない。 |
いつでもいもが食べられるっていいなって思ったんや。
長いながい冬が終わり、待ち望んだ春を迎えると、 マチ子さんはまずじゃがいもをたくさん植える。 夏になって収穫したいもは、小さなものまで大事に食べる。 子どもの頃、食べるのに苦労した経験があるからだ。 「畑をさらうくらいにしていもを掘って食べてな、9人家族やからすぐなくなるんや。大根やかぶらを植えるときに残ったいもを見つけるとうれしかったなぁ。」 「本家に行って手伝いをすると、いもの塩煮しめをもらえてな、うちにはもうなかったから、うれしゅうて仕方なくてな。いつでもいもが食べられるといいなって思ったんや。」 育てたじゃがいもは薪ストーブでことこと煮て、ころいもにする。 「十分時間があるから、レンジでチンする必要がないんや。いもも山菜も豆もぐたぐたぐたぐた煮る。それがいい。」 子どもの頃の教えや想いを忘れずに、身の丈に合った暮らしを楽しんでいる。 |