ひだのごっつぉを召しあがれ
2022/10/19

ひだのごっつぉを召しあがれ

ハレとケの飛騨のごちそう

見渡す限り緑に覆われた山々。その合間を縫うように流れる無数の川。里に降りれば広がる豊かな田畑の数々。飛騨で暮らしてきた先人たちは、この自然の恵みを最大限に活かすべく、独自の食文化を築いてきました。保存食文化が発達したのも、寒い冬を乗り切るための山国らしい知恵といえるでしょう。この地で連綿と受け継がれてきたご馳走を、飛騨の人たちは親しみを込めて「ごっつぉ」と呼びます。日々の食事でもお祭りでも食べられる飛騨ならではのごっつぉをご覧あれ。

とんちゃん

神岡町の名物。牛ホルモンと野菜を、ニンニク、唐辛子、そして各家庭やお店の秘伝の味噌ダレで味付けして鉄板で焼いて食べるスタミナ料理です。もつ鍋のように煮込みで出すお店もあります。かつて鉱山で働く労働者を中心に食べられており、歴史は半世紀以上。語源に関しては諸説ありますが、一説によると韓国語のトンチャン(腸全般)から名付けられたといわれています。

朴葉(ほおば)味噌

大きくて抗菌作用のある朴葉は、いろんな用途で使われてきました。「朴葉味噌」は味噌をネギなどの薬味やキノコなどと一緒に朴葉の上で焼いて食べる料理。農林水産省が定める「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれています。ちなみに飛騨の味噌は塩分控えめ、麹の甘みが強いのが特徴です。

漬物ステーキ

漬物を炒め、卵でとじて、鰹節やきざみのりをまぶした郷土料理。樽の中で凍った漬物を、温めるために焼いて食べたのがはじまりだと伝えられています。バターやゴマ油で炒めたり、ツナ缶を入れたり、味付けは店や各家庭でさまざま。漬物を焼くことで酸味が旨味に変わり、やみつきになる味わいに。地元では「漬けステ」と呼ばれています。

ご飯と赤カブの漬物

冬になれば深い雪に覆われて農作物を育てるのが難しい飛騨だからこそ、漬物文化が発達しています。収穫したての赤カブは皮だけが赤く中身は真っ白ですが、漬け込むことで果肉まで紅色に染まり、乳酸菌の働きで発酵。冬の食卓を彩る「赤カブ漬け」ができ上がります。ほどよい酸味と甘い香り、熟成のコクは白いご飯との相性も抜群にいい!

五平餅

一般的な五平餅にはクルミやゴマを使ったタレが使われますが、飛騨ではあぶらえ(エゴマ)の実をすりつぶしたものを使うことも。そこに砂糖、醤油(もしくは味噌)、みりんを混ぜ、適度につぶしたお米に塗ってこんがり焼くのが一般的。あぶらえの五平餅はゴマ以上に香ばしく、米の甘みがマッチした味わいに。小腹が空いたときや、祭り、縁日などに欠かせません。

中華そば

飛騨の人が「そばを食べに行こう」と言ったら、それはそば屋ではなく中華そばのこと。年越しに蕎麦のかわりに中華そばを食べる家庭も多く、地元の味として定着しています。飛騨の名水を使った鶏がらベースのあっさりした醤油スープに、細い縮れ麺の懐かしい味わい。具材もメンマ、チャーシュー、ネギといたってシンプル。

在郷料理

  • ぎせい焼き
  • コロイモの煮っころがし
  • なつめの甘露煮
  • 大根なます
  • ひめ竹の煮物とこも豆腐
  • 地元の野菜や山菜の天ぷら
  • 天ぷらまんじゅう

細かく崩した豆腐に黒ゴマを混ぜて固めて甘辛の醤油で味付けながら両面を焼いた「ぎせい焼き」や、小さなジャガイモを砂糖や醤油などで煮込んだ「コロイモの煮っころがし」、甘酸っぱくて食べはじめたらやめられない「なつめの甘露煮」、ダイコンとニンジンを白和えにした「大根なます」、歯ごたえしゃきしゃきの「ひめ竹の煮物」や出汁が浸みた「こも豆腐」など、地元食材を使った飛騨の在郷料理。飛騨で採れる野菜やタラの芽、ウド、コシアブラ、アズキナ(ナンテンハギ)などの山菜を使った天ぷらもよく食べられ、ユニークなものではまんじゅうを天ぷらにしたものもあります。

ユニークな“おもてなし”「呼び引き」

山紫水明と謳われる豊かな自然に囲まれて、おいしい“ごっつぉ”が揃う飛騨。舌の肥えた地元人がとくに楽しみにしているのが、祭日に盛り上がる「呼び引き」です。県外の人にはきっと耳なれない言葉でしょう。これは各家庭でごっつぉの山を築き、祭りを見に来た人にふるまうという文化のこと。「さあ、たぁんと召し上がれ!」と供されるお料理の内容とは? 飛騨の太っ腹な食カルチャーについて、飛騨古川夢ふるさと案内人の谷村省三さんと、「味処古川」店主の森 要さんに語ってもらいました。

美しいお膳の上に載せられた、お刺身、山菜、ホタルイカ。お吸い物に赤飯、お漬物。色とりどりの“ごっつぉ”(ごちそう)が並ぶ畳の座敷。これは「飛騨古川まつり会館」に展示された、約30年前の「呼び引き」の光景です。

「飛騨の家では、お祭りのたびにこうした伝統食を準備して、お祭り見物に訪れるお客さんをもてなしてきた文化があるんです。たとえば、4月19日、20日に行われる古川祭なら、とくに20日の夜はどこの家も『呼び引き』の大宴会。自分の親族をはじめ、その友だち、さらにその友だちと一緒にわいわいと食卓を囲むんですよ」
 
そう教えてくれたのは、飛騨古川夢ふるさと案内人の谷村省三さん。20年前はなんと30人もの客をもてなしていたのだとか。ゆかりのある知人たちにまじって、「アンタ、どこの人やの?」な御仁もまぎれこんで食べたり飲んだりして帰ったというからおおらかです。
この楽しそうな「呼び引き」。本物とは言わないまでも、ぜひその余韻を味わってみたい! と思うなら、おすすめのお食事処があります。JR飛騨古川駅より徒歩8分。それが、飛騨が誇るたくさんの“ごっつぉ”で人気のお食事処「味処古川」。
 
店主の森 要さんは、飛騨古川に生まれ育った生粋の飛騨人。祭りとともに行われる「呼び引き」が子どもの頃から大の楽しみだったといいます。
 
「古川には30ほどの集落があってね、とくに春や秋はもう毎日のようにそれぞれの集落が独自の祭りを行っていて、その地元では『呼び引き』をするのです。我が家にも、祭りのときはたくさんのお客さまが来て、地元で取れたお米や野菜、富山湾で獲れた魚などを出して、ゆっくりと楽しんでもらうのが恒例でした。現代ではお招きする人数はずいぶん減りましたが、今でも脈々と続いている文化ですよ」

そんな飛騨のおもてなしカルチャーを形にしたのが「体に優しいヘルシーな地産地消(飛騨のめぐみ)ランチ」(1,210円・税込)。この日のメニューは、ねぎみそ天ぷら、飛騨産こうじみそ、地元ではお馴染みのこもどうふ。飛騨古川のコシヒカリの白米に、朝市に並んでいた新鮮なナスを使った小鉢やよもぎうどんなどが並んでいました。この定食では飛騨にゆかりのある食材を中心とした旬のお料理がいただけます。
 
春になればホタルイカ、冬になればブリの姿も。山に囲まれた土地でありながら、富山からやってくる海の幸も一緒に味わえるのが飛騨の自慢。お祭りのときも、お祭りじゃないときも、地元人の愛がこもった“ごっつぉ”をぜひご堪能あれ。

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