ひだ暮らしの知恵袋
2022/10/19

ひだ暮らしの知恵袋

町、山、季節にみる先人たちのアイデア

大自然と向き合い、創意工夫をしながら寄り添ってきた飛騨市の人々。たとえば、野の薬草を生活に取り入れる方法。豪雪地帯であるからこそできるモノづくり。防火の工夫から生まれた白壁土蔵群もあれば、雪に閉ざされる冬のおいしい保存食も生まれてきました。今も宝のように受け継がれる先人の知恵の数々を覗いていこう。

白壁土蔵群が伝える歴史

古川の町は増島城の城下町であり、町には武士と町人が暮らしていて、瀬戸川は武家屋敷と商人町の境界だった。瀬戸川沿いにどこまでも連なる土蔵は、商人の町として栄えていたことを示す。

鯉の秘密

1000匹もの鮮やかな鯉がゆうゆうと泳ぐ瀬戸川。この川がかつて高度経済成長の頃に生活用水で汚れてしまったとき、町の人たちが「古川の美しい町並みを取り戻したい」と鯉を放流しました。今では「疏水百選」に選ばれ、住民たちは柵に詰まったごみを除いたり、初夏に瀬戸川沿いに飾られる花菖蒲の世話をしたりして大切に守られています。

 

冬ならではのごはん 花もち・にたくもじ

雪深い飛騨市では、正月を彩る生花が手に入りにくかったため、お正月は紅白の餅を枝に巻きつけた「花もち」を飾って愛でるのがならわしに。春になれば、この花もちをひなあられにして楽しみます。また、漬かりすぎて酸っぱくなった漬物は、煮物にして「にたくもじ」という料理に。食材をおいしくいただく知恵になっています。
 
 

冬のものづくり 山中和紙・雪中酒・寒干し大根

和紙の原料であるコウゾを雪にさらして漂白し、自然の力で白さを増す「山中和紙」。天然の雪室で貯蔵し、夏に雪とともに出荷する“幻の酒”「雪中酒」。茹でた大根を軒先で乾燥させ、凍えるように寒ければ寒いほどにおいしくなる 「寒干し大根」。どれも日本屈指の豪雪地帯であることを生かした飛騨市ならではの特産品です。

 

 

 

板倉の風景が生まれた理由

全国でも珍しい手積みの棚田が数多く残る宮川町の集落「種蔵」。その田園風景はユニークで、米や野菜や種もみを貯蔵するための木造の蔵「板倉」が、家の数よりも多く残されています。というのも、かつて飢饉に襲われた際、板倉に蓄えた食料で乗り切った過去があるため。種蔵には今も「家を壊しても倉を壊すな」との教えが残っています。
 

雪虫のこと

空気中をフワフワと舞う5mmほどの小さな「雪虫」は冬の風物詩。正体は、おなかに綿のようなものをつけて飛ぶアブラムシの仲間で、あらわれると近日中に雪が降ることを知らせてくれます。一方、カメムシは大量発生したら大雪になるとか。飛騨市の人たちにとって、自然に暮らす小さな虫たちも立派な天気予報士なのです。

心身を癒やす薬草術

約250種もの薬草が自生する飛騨市。薬草は、ほかの野草に比べてミネラルを多く含むことから、薬としてはもちろん、お茶や薬味としても日頃から生活に取り入れてきました。飛騨市では、こうした薬草使いの知恵を「薬草ビレッジ構想推進プロジェクト」にて発信中です。

メナモミ

乾燥した葉を煎じて飲めば、風邪を治癒するとされていて、動脈硬化や高血圧の予防にもなるとされる薬草。葉っぱは苦いため、生葉をしぼってハチミツと合わせるのがよいとか。プランターなどでも栽培しやすい飛騨市イチオシの薬草。

クズの花

漢方薬の材料でもあり、捨てるところがないといわれるほど薬草として優秀なクズ。根は葛根湯になり、赤紫色の花は肝機能の働きを助け、新芽は髪の毛を黒くしてくれるとか。お酒の飲みすぎにも効果を発揮するそう。

ヨモギ

身体を温め、造血・止血作用もあるとされる身近な薬草。独特の香りがあり、よく草餅にして食べるために飛騨でついた呼び名は「もち草」。食べたり飲んだりすることで強壮や健胃、利尿、眼精疲労などにもよいと伝わっています。

ドクダミ

多様な薬効で知られる民間薬の代表選手。乾燥葉には解毒や利尿、整腸作用などが、生葉には排膿、抗菌作用などがあるそう。生葉を絞った青汁にハチミツを加え、発酵させてドクダミワインにするという楽しみ方も。

教えて、薬草マスター! 飛騨の薬草の魅力って?

飛騨市内を歩いていると、薬草カフェがあったり、薬草体験施設があったり、宿で薬草の薬湯に入ることができたりと、いろんなところで薬草の存在に出くわすことがあります。でもこの飛騨の薬草文化、県外の方にはなかなかなじみがないかもしれません。一体どんな薬草があるの? そこにはどんなチカラが? 神秘の植物を知り尽くすプロフェッショナル・岡本 文さんに話を伺いました。
 
 
ちょっとした道ばたや田んぼの脇、あるいは山中など、飛騨市にはたくさんの薬草が自生しています。その数、飛騨市古川町だけでもなんと245種類。約30年前に薬学博士の故・村上光太郎先生が飛騨の薬草をくまなく調査されたことをきっかけに、飛騨市では薬草を使った元気な町づくりがはじまりました。
 
「薬草はパッと見は雑草のようでいて、実は底知れないパワーを秘めています。今、市として最も推しているのが『メナモミ』。血流をよくしてくれる作用があり、動脈硬化や脳梗塞といった血管系の病によいとされているんですよ」

 

 そう教えてくれたのは、飛騨市地域おこし協力隊の岡本 文さん。冬、豪雪に閉ざされる飛騨では、体を温めようと味つけの濃い、塩分の多い食事を摂ってしまい、血液がドロドロになりやすいのが難点でした。その点、血流をサラサラにするというメナモミはまさに天然の恵み。ぜひとも一家に一株は持っておいてほしいと、岡本さんは市とともに苗の進呈などを行ってきました。
 
「ほかに飛騨の暮らしによく取り入れられているのは、のんべえ御用達の『クズの花』、痛み止めとして活用されている『ノブドウ』、元気の源として有名な『ドクダミ』など。私も、夏の朝は一杯のドクダミジュースからはじめています。ハチミツを入れるとリンゴのような味になり、おいしくて夏バテ予防にてきめんなんですよ」
 
 
 
雪解けの春が来るとソワソワするという岡本さん。とくに春から梅雨にかけては薬草を摘み取るのに大忙しなんだとか。
 
「天気がいいときはいつでも山に駆けつけられるように、車の中には長靴、軍手、ハサミといった道具を常に積んでいます。冬もこのミネラルたっぷりの薬草をいただきながら乗り切ります。薬草の摂取は継続が大切。大切なのはいかにおいしく食べ続けるか、なんです」
 
こうした知恵をかたちにしている飲食店のひとつが「蕪水亭(ぶすいてい)OHAKO」。メナモミをはじめ、ハトムギ、クチナシ、クワなど、旬の薬草をたっぷり使った料理やデザートが揃います。イチオシは、薬草料理が少しずつ食べられる「薬草ランチプレート」(980円)。そこには、サラダのような目に見える薬草使いだけでなく、料理の中に溶け込んで見えなくなっている薬草使いも。そこが薬草をおいしくいただく秘訣なんだとか。
 
「薬草は味にクセがあったり、独特の香りをもつものも多いのですが、調理法や調味料の合わせ方によってはグッとおいしく、まろやかになるんです。たとえば、乾燥させて抹茶のようなパウダーにしたり、煮だしたエキスを使ったり、ペーストにして練り込んだり、アルコールに浸けてお酒にしたり。この活用術こそ飛騨人の知恵の結晶。旅でお越しになった際は、ぜひこの恵みを体感してください」
 
 
 
食として味わう楽しみはもちろん、薬草で遊ぶ楽しみを満喫するなら、飛騨古川の町中で薬草のワークショップを行っている薬草体験施設「ひだ森のめぐみ」もオススメ。あるいは、木漏れ日の中で森林浴をしながら薬草の生える道を歩ける「朝霧の森」も自然の中で薬草を学べる場所です。薬草の豊かなチカラを体験しに、ぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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